中谷 宇吉郎
寅彦の遺跡
高知へ着いた日に、すぐ寺田紀念館で、御親戚の方や、寅彦を敬愛する人たちと、座談会の準備がしてあった。
紀念館は、先生の旧宅のあとに建てられたもので、昔の名残としては、庭の一部と先生が子供の頃勉強された離れ部屋が一ツ残っているだけである。旧宅は全部戦災で焼けてしまった。
新しい紀念館は、戦後顕彰会の手で建てられたもので、中は全くのがらん洞である。遺品や先生ゆかりの品などは、全部戦災で亡われてしまったのであろう。庭もひどく荒れ果てていて、今は昔の面影も残っていないそうである。
こういう紀念館などというものは、国か地方かから、恒久的な補助がある場合でないと、なかなか維持出来ないもののようである。集られた人たち、即ち寅彦を愛する人たちの口から、そういう意味のことが、淋しげに洩らされていた。