中谷 宇吉郎
映画を作る話
去年の暮のことである。T映画会社の専務とかいう方が見えたというので、会って見たら、その用向きというのが、『雪』を映画にして見たいがどうかという話だったので、少々驚いた。
もっともよく話を聞いて見ると、ちょっと面白いので、人工雪の結晶が顕微鏡の覗野の中でだんだん生長して行くのを活動にとって、それを主眼にして、外に少し研究の雰囲気をとり入れた文化映画が作りたいという話なのである。
「実は社の文化映画部の者が貴方の『雪』を読んで、大変面白いから是非一つこれを作りたいと言うのでしてな。どうも外国の文化映画がますます良くなって、何とかして独逸なんかの物に負けないような奴を一つ作りたいのですが、なかなか巧いものがなくて困っているんです。下手に立派な器械の場面だと思って撮ると、独逸製のマークがはいっていたりするようなことがあると困りますからね。その点『雪』の方なら大丈夫ですからな」という話であった。
どうもなかなか油のかけ方が上手である。こういう風に巧くおだてられるとすぐ降参してしまって、それでは一つ協力して何とかやって見ましょうということになった。