石川 欣一
可愛い山
山へ入る日・山を出る日
山へ入る日の朝は、あわただしいものである。
いくら前から準備していても、前の晩にルックサックを詰めて置いても、いざ出発となると、きっと何か忘れ物があったのに気がつく。忘れ物ではなくとも、数の足りぬ物があるような気がしたりする。すっかり足ごしらえをした案内や人夫が、自転車で走り廻る有様はちょっと面白い。
それもまア、どうにかこうにか片づいて、いよいよ歩き出す。たいていの場合、町なり村なりを離れると、林の中か野原を横切って行くのだが、二、三時間も歩くと、くたびれて了う。一つには身体の鍛練が出来ていないからで、二つには暑いからである。草のいきれ程うれしからぬ物はない。