林 芙美子

雪の町

一

神聖だと云ふ事はいつたい何だらう? 彼女は、いつも、そんな場所に到ると、ふふんと、心の中で苦笑してゐた。金使ひが澁い癖に、藝者に對しては、まるで、犬猫同然にしか考へてゐない町長が、公のもよほしごとがあると、木石のやうな固さによそほうて、その式に參列し、きまつて、一場の訓辭をたれる。式が始まる前には、東方を向いて宮城禮拜があり、英靈に對して默祷がある。きまりきつた一つの型が、大眞面目で演じられる。誰一人として不思議がるものはない。美津江は、そんな場合に、立たされた時、きまつて、吐氣の來るやうな、憤りを感じないではゐられなかつた。

神聖とは殘忍なものだと思つた。

戰爭も神聖だと云はれてゐた。だけど、こんなに毎日が追ひたてられるやうな生活でゐて何が神聖なのだらうと、彼女は不思議で仕方がない。若い妻は、戰野に良人を送り、その良人の戰死を知つても、毎日の新聞は、涙一滴こぼさないこの勇婦たちをたゝへてゐる。

青空文庫の作品カード