中 勘助

きもの

生垣つづきの小路が交叉してるところで私たちはばつたり出逢つた。飛田は意外な面もちをした。そしてほんの目と鼻の近処へこしてきながら知らせもしずにゐた私に尤もな苦情をいつた。私はなんとかいひ紛らしたにちがひない。

「遊びにきたまいよ」

飛田は口を尖らせていつた。そこで私たちは短い立ち話を切りあげて別れた。彼は役所の帰り、私は散歩か郵便を出しにゆく途中だつたらう。そんなことでもなければうち絶えたままになつたかもしれない交際がそれからまた始まつた。さうして一高時代からのどちらかといへば羽織袴のおつきあひがちよいちよい著からふだん著のそれへとかはつていつた。それには流れ去つた十数年の歳月や私自身の心境の変化のせゐもあつたらうが、直接にはその時から私の生活、私たちの交際の圏内へ不意にギャロップで飛び込んできた可愛らしい子馬――鳰子の無心な解きほぐしが原因となつたのであらう。私は小さな草原を横ぎつてむかうの閑静な高台の表つきの気に入つた家へ足繁く通ふやうになつた。

あるとき私は柄のいい米琉の袷をきていつた。高台には生垣のかなめ、ひば、杉などがみづみづしい若芽をふき、沈丁花がかをり、蘇芳や連翹がさき、木蘭が盃をたて、どうだんが提灯をさげ、梢には四十雀が鳴きかはし、陽炎のたつ地べたには穴に出はいりする蜂の影が小忙しく動く頃、程よくさびのついた郊外の住宅地が最も美しく住み心地がよくなる季節だつたであらう。お母様は私の袷をみてまづその柄をほめたあげく

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