山本 周五郎

思い違い物語

一の一

典木泰助が来たときは誰もさほど気にしなかった。江戸邸から人が来るたびに警戒的になる一連の人たちは、こんども初めはびくりとしたようである。しかし二十日ばかりするとかれらは祝杯をあげた。よほど疑いぶかい者でさえも、多少は含みのある調子で、

――まあ、よしんばそうだったとしてもあの男ならまあさして心配はないだろう。

こう云ったくらいであった。

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