山本 周五郎

秋の駕籠

一

魚金の店は北八丁堀の河岸にあった。二丁目と向き合った角で、東と南の両方から出入りができた。魚金は一膳めしと居酒を兼ねた繩のれんであるが、造作もちょっと気取っているし、いつも掃除がゆき届いていて、さっぱりとした洒落れた感じの店であった。板場のほうは主人の金助が受持ち、店は娘のお梅が二人の小女を使ってやっていた。

金助は四十五であった。彼はもと深川で魚屋をしていたが、お梅が八つになったとき女房に死なれ、まもなくこっちへ移って来て、このしょうばいを始めた。がっちりと骨太に肥えた、赫ら顔のぶあいそな、そしてひどく口の重い男であるが、気の好い情に脆い性分であった。

――おれは儲けるのは二の次だ、と金助は云っていた。めし屋などへ来る客は独身の者が多い。だから家庭的なものに飢えている、美味いに越したことはないが、親身な家庭的なものが喰べたいだろうし、家庭的な気分が欲しいものだ、この魚金はそういう店にするんだ。

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