山本 周五郎
薊
加川銕太郎は机に向って坐り、ぼんやりと庭のほうを眺めていた。部屋の片方では弟の佐久馬が、本箱を前にして書物の整理をしていた。
「またですか」と云う妻の声がした、「またいつものことを考えていらっしゃるのね」
銕太郎は黙っていた。
彼は両の肱で机に凭れ、両手で顎を支えながら、やや傾きかけた陽の当る、冬枯れの庭を眺めていた。赤錆色の、少しも暖かさの感じられないうすら陽は、林になっているくぬぎの木の幹を、片明りに染め、枯れた芒のくさむらの、ほほけてしまった穂を、鮮やかに白く浮き立たせていた。