山本 周五郎

雨あがる

一

もういちど悲鳴のような声をあげて、それから女の喚きだすのが聞えた。

――またあの女だ。

三沢伊兵衛は寝ころんだまま、気づかわしそうにうす眼をあけて妻を見た。おたよは縫い物を続けていた。古袷を解いて張ったのを、単衣に直しているのである。茶色に煤けた障子からの明りで、痩せのめだつ頬や、尖った肩つきや、針を持つ手指などが、窶れた老女のようにいたいたしくみえる。だがきちんと結った豊かな髪と、鮮やかに赤い唇だけは、まだ娘のように若わかしい。子供を生まないためでもあろうが、結婚するまでの裕福な育ちが、七年間の苦しい生活を凌いで、そこにだけ辛うじて残っているようでもあった。

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