山本 周五郎

落ち梅記

一

「すまない、そんなつもりじゃあなかったんだ、酔ってさえいなければよかったんだが、どうにもしようがない、本当にすまないと思ってるんだ」

半三郎はこう云って頭を垂れた。不健康な生活をそのまま表明するような蒼ざめた艶のない顔である、しまりなくたるんだ唇、ぶしょう髭の伸びている尖った顎、焦点のきまらない濁った眼、すべてがいやらしいくらい汚れた感じであった。――金之助は静かなまなざしで友のようすを眺めた。彼の濃い眉毛やひき緊った唇や、高頬の線のはっきりした顔だちは、いずれかというと凌烈な印象を与えるほうなのだが、いま友を見る眼つき表情はなごやかに温たかい色を湛えていた。

「もう少し時日があれば都合のつくあてはあるんだが、相手がどうしても待たないんだ、じかに家へ取りにゆくと云うんで、なにしろあのてあいは本当にやりかねないもんだから」

青空文庫の作品カード