山本 周五郎

鵜

一

布施半三郎はその淵をみつけるのに二十日あまりかかった。

加能川には釣り場が多い、雇い仲間の段平は「三十八カ所ある」と云った。半三郎はひととおり見て廻ったが、自分の求めている条件に合うのは、その淵だけであった。――そこは七十尺ばかりの断崖の下にある。岩角や木の根をつたっておりるほかに道はない。対岸も同じような断崖で、淵はちょうど末すぼまりの袋のようになっている。川は右から曲って来て淵に入り、その淀みをぬけると左へ曲って川下へ下っている。したがってその淵はまったく他から隔絶しているし、人の来る心配もないといってよかった。

半三郎は満足そうに頷いた。彼は断崖の下の平たい岩の上に立って、流れや淀みのぐあいを見たり、両岸のようすを眺めやったりした。

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