山本 周五郎

おかよ

一

――ああこんどこそ。

おかよは縁台から立った。からだじゅうの血がかっと頭へのぼるようで、足がぶるぶるとひどくふるえた。跫音はまっすぐに近づいて来た。そして、すこし葭簾のはねてある入口からしずかにはいって来たのは、やっぱり待っていた弥次郎であった。おかよは全身が燃えるように感じ、舌が硬ばって、すぐにはものも云えなかった。弥次郎も黙っていた。……そとは星空で、まだ宵明りものこっていたが、葭簾で囲った小屋のなかは暗かった。

「よう来てくださいました」

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