山本 周五郎

お繁

一

曇日であった。

わたしは青べかを漕いで河をくだり、ふたつ瀬から関門をぬけて細い水路へはいっていった。そこにはわたしが私かにみつけておいた鮒の釣場があるのだ。――左岸には川柳が茂っていて、流れにあらいだされた薄紫色の根が水の中へ美しく差伸ばされているのが見える、そこからすこし右手に朽ちかかった棒杭が五六本あって、葉の細長い藻の生えた深い淀みができている、わたしはそこへ舟を着けて釣糸を垂れた。

曇ってはいるが降りそうでない空、不機嫌な鰥ぐらしの男が物思いに沈んでいるような陰欝な空が低く垂れている……わたしは煙草に火をつけてあたりを眺めまわした。

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