山本 周五郎

正体

龍助危篤という電報を手にしたとき、津川は電文の意味を知るよりも佐知子に会えるなと思うほうがさきだった。

「なんていうやつだ」

それでも彼はいちおうそう云って自分を苦々しく反省したが、車で東京駅へかけつける気持には、すでにどう抗ってみても危篤の友を見舞うにふさわしいものはなくて、抑えても抑えてもふくれあがる女への情熱でいっぱいだった。

佐知子とは彼女が龍助のあとを追ってフランスへ行くとき会ったきり手紙のやりとりもせず五年になる。

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