山本 周五郎

十八条乙

一

その事のおこる五日まえ、西条庄兵衛は妻のあやに火傷をさせた。切炉で手がすべって湯釜を転覆させたとき、ちょうどあやが火箸を取ろうとしていて、その右手の先へ熱湯がもろにかぶってしまったのだ。叫び声をあげたのは脇にいた母のたえであった。あやはなにも云わず、庄兵衛は狼狽して、すぐに薬箱を取りに立った。母はあやの手にあり合う布を巻き、やけどの手当なら知っているからと、女中を呼びながら台所へいった。そしてうどん粉を酢でこねたものを作り、それをあやの手へ塗って、上から晒し木綿を巻いた。

「わるかったね、おれの粗忽だ」と庄兵衛は繰り返し詫びた、「痕にならなければいいが、大丈夫だろうか」

「大丈夫ですとも」気丈なあやは明るく頬笑んだ、「湯をかぶっただけですもの、そんなにおおげさに仰しゃらないで下さい」

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