山本 周五郎
滝口
一
益村安宅が釣りをしていると、畠中辰樹が来て「釣れたか」と云った。益村は振り向きもしなかったが、声を聞いて畠中だということはわかった。益村は返辞をせず、畠中はその脇に腰をおろした。七月のよく晴れたひるさがりだが、うしろの崖に樹の茂みがあり、二人のいるところは日蔭になっているうえ、川から吹いて来る風があるので、少しも暑さは感じられなかった。
「なにか用でもあるのか」と益村がきいた。
「べつに」と畠中が答えた、「たぶんここだろうと思ったんでね」
山本 周五郎
一
益村安宅が釣りをしていると、畠中辰樹が来て「釣れたか」と云った。益村は振り向きもしなかったが、声を聞いて畠中だということはわかった。益村は返辞をせず、畠中はその脇に腰をおろした。七月のよく晴れたひるさがりだが、うしろの崖に樹の茂みがあり、二人のいるところは日蔭になっているうえ、川から吹いて来る風があるので、少しも暑さは感じられなかった。
「なにか用でもあるのか」と益村がきいた。
「べつに」と畠中が答えた、「たぶんここだろうと思ったんでね」