山本 周五郎
はたし状
一
今泉第二は藩主の参覲の供に加わって、初めて江戸へゆくことになったとき、和田軍兵衛の長女しのを嫁に欲しいと親たちに申し出た。まず母に話したのであるが、母はさも意外なことのように、こちらの顔をまじまじ眺めながら、すぐには返辞ができないというふうだった。
「いけないでしょうか、私は、母上はもう御承知だと思っていたんですが」
「とんでもない、母さんはまるで知りませんよ、却ってその反対だと思っていたくらいです、だってあなたは小さいじぶんから和田へ入り浸りで、あちらの子たちとはずっときょうだいのようにしておいでだったでしょう」