山本 周五郎
武家草鞋
一
「あの方はたいそう疲れていらっしゃるのですね、お祖父さま、きっとずいぶんお辛い旅が続いたのでしょう、わたくしあの方のお顔を拝見したときすぐにそう思いました」若いむすめの艶やかな声が、秋の午後のひっそりとした庭のほうから聞えてくる、「……並なみのご苦労ではないのですよ、あのお眼の色でしんそこ疲れきっていらっしゃるのがわかります、わたくし胸が痛くなりました、本当にここのところが痛くなりましたの、お祖父さま」
「その土を均すのはお待ち、朽葉を混ぜて少し日に当ててからにしよう」老人のしずかな声がそう云った、「……今年あんなに虫が付いたのは鋤返すとき日に当て方が足りなかったのだろう、可哀そうにこっちの蕨はみんな根がこんなになってしまった」
「ああそれはお捨てにならないで下さいまし、わたくし糊を拵えますから」