山本 周五郎

風流太平記

変事

一

九月中旬のある晴れた日の午後。

芝新網にある紀州家の浜屋敷の門前へ、一人の旅装の若者が来て立った。長い旅をつづけて来たものとみえ、肩へかけた旅嚢も、着ている物も、すべて汗じみ、埃まみれであるが、笠をぬいだところを見ると、いま洗面したばかりのように、さっぱりと冴えた顔つきをしていた。

青空文庫の作品カード