山本 周五郎
蕗問答
一
寒森新九郎は秋田藩士である。
食禄は八百石あまりだが佐竹では由緒のある家柄で、代々年寄役として重きをなしていた。年寄役とは顧問官のようなもので、閑職ではあるが重臣だけが選ばれる顕要な地位である。彼は二十五歳で父亡き跡を襲い、以来五年のあいだ主として筆頭の席を占めてきた。
役目の性質として常に藩政の鑑査に当るのは勿論だし、時には主君の命令をも否決する立場に立たなければならぬ事がある。大概に云っても憎まれ役なのだが、新九郎は筆頭としてその矢表に立ちながら、極めて明敏にその役目を処理してきた。