山本 周五郎

屏風はたたまれた

一

吉村弥十郎はその手紙を三度もらって、三度とも読むとすぐに捨てた。ちょうど北島との縁談がまとまったところなので、誰かのいたずらだろうと思ったからである。差出人の名はただ「ゆき」とだけで、内容はいつもきまっていた。

――自分はさる家の乳母であるが、自分のそだてた嬢さまがあなたをみそめ、おもいこがれるあまり病気のようになった。そばにいて見るに見かね、思いきってこういうぶしつけな手紙をさしあげる。どうかいちど嬢さまに逢ってやってもらいたい、むすめ一人のいのちが助かるのである。自分は来てくださるものと信じて、嬢さまといっしょに待っている。堺町の中村座の茶屋で「ゆき」と云ってくださればわかるようにしてある。

そして、どうかぜひ来てくれ、こんどこそ来てくれるようにと、くり返し書いてあった。どこのなに者ともわからないが、よその娘にみそめられる、などという機会があったとは思えない。考えてみても、弥十郎にはそんな記憶はないし、書いてあることもあまりに古風であり、型にはまりすぎていた。「ふん」と弥十郎は呟いた、「ひまなやつがいるものだ」

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