山本 周五郎
無頼は討たず
一
浅黄色にくっきり晴れた空だ。
春の遅い甲州路も三月という日足は争われず、堤には虎杖が逞しく芽をぬき、農家の裏畑、丘つづきには桃の朱と麦の青が眼に鮮やかだ。笹子川の白い河原を低くかすめ飛ぶ鶺鴒の声も長閑である――。
大月の宿を出た街道は半里ほどすると爪先あがりに笹子峠へ一本道、右に清冽な流れをみながら行くこと三十町で初狩村へ入る、峠にかかる宿のことで茶店が三四軒、名物の力餅や笹子飴を売っている。
山本 周五郎
一
浅黄色にくっきり晴れた空だ。
春の遅い甲州路も三月という日足は争われず、堤には虎杖が逞しく芽をぬき、農家の裏畑、丘つづきには桃の朱と麦の青が眼に鮮やかだ。笹子川の白い河原を低くかすめ飛ぶ鶺鴒の声も長閑である――。
大月の宿を出た街道は半里ほどすると爪先あがりに笹子峠へ一本道、右に清冽な流れをみながら行くこと三十町で初狩村へ入る、峠にかかる宿のことで茶店が三四軒、名物の力餅や笹子飴を売っている。