山本 周五郎
豹
月見山で電車を下りると、いつもひっそりしている道の上に、ざわざわと人の動くのが見えた。正三はべつに気にもとめず、山手のほうへ大股に登っていくと、空地の角にある音楽家の住居で、近所から薔薇屋敷と呼ばれている邸の門前にも、音楽家の若い妻君を中心に付近の婦人たちが四五人集まって何かひそひそ話している。正三はその傍を通り過ぎるとき、音楽家の妻君が、
「宅では拳銃の弾丸を買いにやりました」
と云っているのを聞いた。
「ただいま」
山本 周五郎
月見山で電車を下りると、いつもひっそりしている道の上に、ざわざわと人の動くのが見えた。正三はべつに気にもとめず、山手のほうへ大股に登っていくと、空地の角にある音楽家の住居で、近所から薔薇屋敷と呼ばれている邸の門前にも、音楽家の若い妻君を中心に付近の婦人たちが四五人集まって何かひそひそ話している。正三はその傍を通り過ぎるとき、音楽家の妻君が、
「宅では拳銃の弾丸を買いにやりました」
と云っているのを聞いた。
「ただいま」