山本 周五郎
暴風雨の中
一
烈風と豪雨が荒れ狂っていた。氾濫した隅田川の水は、すでにこの家の床を浸し、なお強い勢いで増水しつつあった。昨日の未明からまる一日半、大量の雨を伴って吹きとおした南の烈風は、ようやくいまやみそうなけはいをみせ始めていた。まだ少しも弱まってはいないが、ときおり喘ぎのように途切れるし、空を掩って低くはしる雲の動きも、いくらか緩くなってゆくようであった。
三之助は二階の六帖に寝ころんでいた。
二階には部屋が三つあり、その六帖は東の端になっていた。間の襖があけてあるので、他の二部屋も見とおすことができる。そこには畳や襖障子や、その他の家具、箪笥や長持や火鉢や、なにかの箱などがぎっしり積み上げてあった。吹き飛ばされた雨戸の隙からさし込む光りが、それらの家具を片明りに、ほの暗く映しだしていた。それは階下から運びあげたものであった。この家の人たちはそれらの物を運びあげて、朝はやく、まだ暗いうちに逃げていった。