山本 周五郎

夜明けの辻

一の一

功刀伊兵衛がはいって行ったとき、そこではもう講演が始っていた。

二十畳と十畳の部屋の襖を払って、ざっと四十人ばかりの聴講者が詰めかけていた……下座の隅に坐った伊兵衛は、側にあった火桶を脇のほうへ押しやりながら、静かに周囲を見廻した。

この家の主人、国家老津田頼母をはじめ、豊道左膳、笠折吉左衛門、河村将監らの老職の顔もみえたし、こんな人がと思われる老人や、また学問などとはおよそ縁の遠い、紙屋十郎兵衛、斎藤孫次郎、小林大助などという、若手の乱暴者たちもいた。それからもっと異様な風景だったのは、下座の隅のほうに、婦人たちが四五人熱心に傾聴していたことである。

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