山本 周五郎
日本婦道記
一
「そういう高価なものは困りますよ、そちらの鮒を貰っておきましょう」
書庫へ本を取りにいった戻りにふとそういう妻の声をきいて、太宰は廊下の端にたちどまった。相手はいつも舟で小魚を売りに来る弥五という老漁夫らしい、「そんなことを仰しゃらないで買って下さいまし、こちらの旦那さまにあがって頂こうと思って、ほかの家の前を素通りして持って来たんですから」諄々とそういうのが聞えた。
「とにかく鮒なら貰います、よかったらいつもほど置いていらっしゃい」
山本 周五郎
一
「そういう高価なものは困りますよ、そちらの鮒を貰っておきましょう」
書庫へ本を取りにいった戻りにふとそういう妻の声をきいて、太宰は廊下の端にたちどまった。相手はいつも舟で小魚を売りに来る弥五という老漁夫らしい、「そんなことを仰しゃらないで買って下さいまし、こちらの旦那さまにあがって頂こうと思って、ほかの家の前を素通りして持って来たんですから」諄々とそういうのが聞えた。
「とにかく鮒なら貰います、よかったらいつもほど置いていらっしゃい」