山本 周五郎

日本婦道記

一

「きょうここを出てゆけば、おまえにはもう安倍の家よりほかに家とよぶものはなくなるのだ、父も母もきょうだいも有ると思ってはならない」

父の図書にはそう云われた。母は涙ぐんだ眼でいつまでもじっとこちらの顔を見まもりながら、

「よほど思案に余るようなことがあったら相談においで」

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