山本 周五郎

日本婦道記

一

さかまき靱負之助は息をはずませていた、顔には血のけがなかった、おそらくは櫛をいれるいとまもなかったのであろう、乱れかかる鬢の白毛は燭台の光をうけて、銀色にきらきらとふるえていた。――ああ靱負はうろたえている。真名女はそう思った。そしてそう思ったときに、自分のやくめがどんなに重大であるかということを悟った。

「この事を誰が知っていますか」

「まだわたくしだけでござります」

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