山本 周五郎
赤ひげ診療譚
一
「病人たちの不平は知っている」新出去定は歩きながら云った、「病室が板敷で、茣蓙の上に夜具をのべて寝ること、仕着が同じで、帯をしめず、付紐を結ぶことなど、――これは病室だけではなく医員の部屋も同じことだが、病人たちは牢舎に入れられたようだと云っているそうだ、病人ばかりではなく、医員の多くもそんなふうに思っているらしいが、保本はどうだ、おまえどう思う」
「べつになんとも思いません」そう云ってから、登はいそいで付け加えた、「却って清潔でいいと思います」
「追従を云うな、おれは追従は嫌いだ」