中谷 宇吉郎

大謀網

伊豆の伊東の温泉の沖合に、大謀網が設置されていたころの話である。

高等水産学校につとめているI君が漁撈の視察にやってきて、大謀網を見に行きませんかというので、一緒に出掛けることにした。I君は心得たもので、土地の水産組合へ行って名刺を出して、大謀網の魚を運ぶ船に乗せてもらうようにすっかり手配してくれた。

四月のことで、海の風はまだなかなか寒い。小さい発動機船の中には、部屋らしいものもないので、機関のそなえつけられている穴のような所へもぐり込んで、首だけ出して親方らしい人に色々説明をききながら行った。

半里ばかりの沖合に、旗が二本ひらめいている。太い孟宗竹を何十本と束ねて縛ったものを浮標にして、重い錘をつけておくと、それが海の中でいわゆる定置網の拠点になるのである。そういう拠点になる大きい浮標が二つあって、その各々には旗を立てて目印にしてある。二つの浮標の距離は四町もあるという話であるが、海の中では、それがまるで二本並んでいるように見える。

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