北原 白秋

観想の時

黎明の不尽

天地の闢けしはじめ、成り成れる不尽の高嶺は白妙の奇しき高嶺、駿河甲斐二国かけて八面に裾張りひろげ、裾広に根ざし固めて、常久に雪かつぐ峰、かくそそり聳やきぬれば、厳しくも正しき容、譬ふるに物なき姿、いにしへもかくや神さび神ながら今に古りけむ。たまたまに我や旅行き、行きなづみ振さけ見れば、妻と来てつつしみ仰げば、あなかしこ照る日もわかず、暮れゆけば雲巻き蔽ひ、霹靂はためくさへに、稲光青の火柱、火ばしらの飛ぶ火のただち、また、とどろ雹ぞ飛びたる。御殿場のここの駅路、一夜寝て午夜ふけぬれば、まだ深き戸外の闇に、早や目ざめ猟犬が群、勢ひ起き鎖曳きわき、跳り立ち啼き立ち急くに、朝猟の公達か、あな、ひとしきり飛び連れ下りる騒ぞきの、さて出立つらむ。けたたましく自動車の鳴り爆ぜる音、咽喉太の唸り笛さへ凝り霜の夜凝りに冴えて、はた、ましぐらに何処へか駈け去りぬ。底冷えの戸の隙間風、さるにても明け近からし。目のさめて明告鳥の息長に啼き呼ばふ声、そことなく応ふる声の裾野原揺りどよもすに、おのづ覚め我は在りけり、目はさめて我もありけり。つくづくと首延し見れば、こちごちの濃霧のなびき、渓の森、端山の小襞黒ぐろとまだ気ぶかきに、びようびようと猛ける遠吠、をりからの暁闇を続け射つ速弾の音。たださへも益良夫ごころ溢れ揺り抑へもあへぬを、見透かせば渦巻く霧の瑠璃雲の漂ひが上、数かぎりなき糠星の瓔珞の中、あなあはれ不尽の高嶺ぞ、白妙の不尽の高嶺ぞ、今し今、一きは清き紫の朝よそほひに出で立ち立てり。夢か、こは、まことなりけり。夢ならず、現なりけり。起きよ起きよ。まことこれ日の本の不尽、木花咲耶姫の神、神

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