会津 八一

趣味の向上

「それは意見の相違だ」と互に頑張りあつて、相下らない。こんな事は世間の政治家の間などには、珍らしくも無くなつて仕舞つたが、「趣味の相違」といふ捨科白を美術や文學などに心を寄せる人々との間にも折々聞かされるので、其度毎に私はいやな思ひをする。世の中がデモクラチックになつて行くに從つて、意見の相違も重大さを増して來るであらうし、文藝上の事も畢竟趣味の相違に、あらゆる議論が歸着するかもしれぬが、それは究竟地のことであつて、最初から「趣味の相違」を持ち出すのは不謹愼な、そして危險千萬な話である。

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趣味には相違といふ事のほかに階級がある。即ち高い低いがある、淺い深いがある、精粗の別がある、あらゆる人のあらゆる趣味を同一の平面上に配列して、それをみんな互角だとするのは寧ろ突飛な、亂暴な仕業だ。或る人は高く、深く、練れた趣味を持ち、又或る人は淺く、低く、なまな趣味よりか持たぬといふ事は、實際目の前にいくらもある事だ。そんな場合にでも『それは趣味の相違です』と澄まし返つて居る譯には行くまい。

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