佐佐木 茂索
曠日
一
兄は礼助の注いで出した茶の最後の滴りを、紫色した唇で切ると、茶碗を逆に取つて眺めながら、
「今どき螢出のこんな茶碗なんか使ふの止めや。物欲しさうであかんわ。筋の通つたのがないのなら、得体の知れんものでも使うたがええ。茶を頭葉つかふのなら、それ相応につろくせんとあかんでな。」かう云つて一寸黙つたが、突兀として、
「――お前まだ独りか?」と問うた。
佐佐木 茂索
一
兄は礼助の注いで出した茶の最後の滴りを、紫色した唇で切ると、茶碗を逆に取つて眺めながら、
「今どき螢出のこんな茶碗なんか使ふの止めや。物欲しさうであかんわ。筋の通つたのがないのなら、得体の知れんものでも使うたがええ。茶を頭葉つかふのなら、それ相応につろくせんとあかんでな。」かう云つて一寸黙つたが、突兀として、
「――お前まだ独りか?」と問うた。