石原 純

雨粒

そろそろさみだれの季節がやって来る。

同じく雨ではあっても、ふしぎに季節や環境によってその感じは非常にちがっている。それで我国では雨にいろいろな名まえがつけられている。春さめ、さみだれ、しぐれ、驟雨、ゆうだち、霧雨、小糠雨、その外にもなおあるであろう。そう云う雨のいろいろな感じのなかには、雨の音がかなりな役目をはたらいている。さみだれの静かに降りそそぐ音とか、ゆうだちの激しくものを撃つ音とか、音もなくひっそりと濡らしてゆく小糠雨とか、みんなそれぞれの趣きをそなえているのである。

ものしずかに雨の音を聞いていると、いろいろな記憶が心のなかによみがえって来るのも、一つのなつかしげな風情である。

ところで、ちょっと見方を変えて、雨というのはたくさんの水粒が空から生れて、地上に落ちて来るものだと考え出すと、恰もそれらが人間の運命を象徴しているようにも思われる。こういう水の粒にもいろいろの大いさのものがある。眼で見ると、雨は普通に細い線につながって見える。雨の落ちるのはそんなに速いのではないが、それでも人間の眼はその粒を見分けるわけにはゆかない。

青空文庫の作品カード