小山 清
前途なお
金沢イエは私の父の浄瑠璃の弟子である。短い間であったが内弟子に来ていたこともあった。私は小学校の五年生位だった。イエはそのとき十五位だったろう。あれは稚児輪というのだろう、絵に見る牛若丸のような形の髪に結っていた。またそれがよく映った。色白で眼の涼しいイエは子供の聯想で牛若丸のように私の眼に映った。イエがその日から家に来るという日、学校から帰るとすぐ私はイエの姿を求め、台所で用をしていた母に、「イエちゃん来た?」と問いかけ、用をしていて母が咄嗟に口のきけなかった、返事を渋った短い間を、私は頬のあからむ思いをした。
私は寝起きがよくなかった。朝寝床の中でぐずぐずしていると、よく采配と箒を持ったイエが起しに来た。私はわざとぐずついて「おめざは?」そんなことを云ってイエを困らせた。
「清さんが起きないと、お掃除が出来ません。」
「なんだい、まだ早いじゃないか。じゃ、もう十分……八分、五分。」