林 芙美子
暗い花
いつものやうに、ハンカチーフ一枚で朝湯に飛び込んだ。どこかのお神さんらしい一二度、この風呂で出逢ふ女が、もう、小太りな、眞白い躯を石けんで流してゐた。向うもつんとしてゐるから、こつちもつんとしてゐる。男湯の方は馬鹿に森閑としてゐた。房江は一人でのびのびとあをむけに湯につかつて、高い天井を眺めてゐた。熱くもなく、ぬるくもなしの湯かげんで、これが電氣で沸くのかと、房江はうつとりとなつて、まづ氣持ちのいゝ湯かげんに滿足してゐるうちに、今朝がた別れた厭な男のことも、もやもやと心のなかから消えていつてしまふのだ。
どやどやと硝子戸が開いて、二三人、賑やかな女の聲が番臺の方でしたかと思ふと、間もなく、背の高い女がさつと淺黒い躯でしきりの硝子戸を足で押して這入つて來た。
「空いてるよツ」
あとからも、二人ばかり、話のつゞきなのか、