林 芙美子
風媒
一
早苗はまるでデパートで買物でもするひとのやうに産院をまはつては、赤ん坊を貰ひに歩いてゐた。色が白くて、血統がよくて、器量のいゝ、そして健康な女の子をほしいと思つてゐた。
今日も、ごう/\と寒い風の吹くなかをバスにゆられながら、早苗は三條までやつて來て、疏水の近くにある梅園産院と云ふのへ寄つてみた。底冷えのする寒い路地の中を小走りに歩きながら、早苗はいろ/\な胸算用をしてゐるのである。
産院は格子のはまつた暗い家で、陰氣臭いかまへであつたが、格子を開けると、右手の廊下の向うには、思ひがけない小ざつぱりした茶庭があつた。背の高い小笹に白い手拭がさげてあつて、くつきりと清潔さうで、いままでに見たどの産院よりも豐かな感じである。早苗は、何となくよい子供がさづかりさうな、そんなふくふくした、氣持ちになるのであつた。