与謝野 晶子
既成宗教の外
人間の思慮の及ぶ所には限度がある。天文学者が「宇宙」と云っている所は無限大の実在の一微塵に過ぎない。今のような構造をした頭脳を持っている限り、永久に「不可知の世界」が儼として人間の上に掩いかぶさっている。それに対して、人間は全く盲目であり、唖であり、白痴である。
人間はその思慮の及ぶ範囲で思慮する外は無い。その範囲を越えると「迷信」に踏み込む。私達は最早「迷信」をも思慮の範囲に入れて生きることは出来ない。
野蛮人はその「不可知の世界」を怖れかつ尊んだ。幼穉な想像を以て、その「不可知の世界」に人間以上の奇怪な能力を持つ霊物――神格と名づくべき霊物――のあることを考え出し、全実在はそれの所造であり、それに司配されるものであると信じて、その霊物に服従し依頼することに由って生活の安定を得ようとした。
多神にせよ、一神にせよ、それが実在を創造したので無くて、実は人間が野蛮時代の想像に由ってそれ等の神を案出したのであった。