柳田 国男
瀬戸内海の海人
藝州御手洗(豐田町大崎下島)の邊で聽いた話。此附近ではリョウシと謂へば海人のことである。即ち頭の上に物を載せてあるく、他の地方でイタダキ、オタタ、カネリなどといふ女の一族を意味して居る。
忠海などでは之をカベリと喚んで居る。カベルとは斯うして頭に物を載せる行爲を表する動詞である。
カベリは忠海にも居り、又尾道にも澤山居る。交際は少しも普通とちがはぬやうに見えたが、内實はどうであるか知らぬ。
大崎島でも又生口島などでも、常人は少しも漁をせず、眞宗の盛んな村では釣をさへ厭がつてしない。海の際に住みながら、魚類は悉くリョウシの女の、頭に載せて來るものを買つて居る。