小山 清

老人と孤独な娘

小さな川を隔てて、少し遠い処に墓地があった。はじめて来たとき、老人は墓地を好んだ。樹の間がくれに、小さな墓地であった。一度、雨がひどく降るときに、寂しさがあった。明治十三年、慶応二年、文久二年、安政五年、天保十四年、……墓石は苔むしていた。地蔵さまがあったが、顔が欠けていた。そこは一里塚と言った。寺は何処にも見えなかった。上求菩提下化衆生、老人は言葉が言えなかったが、文句は知っていた。川が流れている小さな墓地に、老人は慰安を求めた。

秋の日、墓地を訪れた。草蔭に杖を引いて腰を下した。凝っとしている。青空から白い雲が見える。人の顔を、馬の顔を、……高い雲は描いている。二時間後、やっと墓地から帰った。途中で、いつも、よしきり橋の袂で疲れた躯を休めた。

そのとき、突然、「Q町四丁目は何処でしょうか?」とひとりの娘が尋ねた。風呂敷包を持っていた。老人は咄嗟に口が言えなかった。

「さあ、……」と黙っていた。娘は黙礼して立去ったのだが、左足は跛であった。老人は「あっ。」とおもわず息を呑んだ。跛のためか、不便であった。

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