江戸川 乱歩

暗黒星

恐ろしき前兆

東京旧市内の、震災の大火にあわなかった地域には、その後発展した新しい大東京の場末などよりも、遥かに淋しい場所がいくつもある。東京のまん中に、荒れ果てた原っぱ、倒れた塀、明治時代の赤煉瓦の建築が、廃墟のように取り残されているのだ。

麻布のK町もそういう大都会の廃墟の一つであった。震災に焼きはらわれた数十軒の家屋のあとが、一面の草原に取り囲まれるようにして、青苔の生えた煉瓦塀がつづき、その中の広い地所に、時代のために黒くくすんだ奇妙な赤煉瓦の西洋館が建っている。化けもの屋敷のように建っている。

明治時代、物好きな西洋人が住宅として建てたものであろう。普通の西洋館ではなくて、建物の一方に、やはり赤煉瓦の円塔のようなものが聳えているし、建物全体の感じが、明治時代の、つまり十九世紀末のものではなくて、それよりも一世紀も昔の、西洋画などでよく見る、まあお城といった方がふさわしいような感じの奇妙な建物であった。

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