岡本 かの子

さくらんぼ

さくらんぼうは彼女の唇を熱がるが、彼女の唇はさくらんぼうに涼もうとする。

さくらんぼうを三粒ほど束ねて女は男の頬を叩いた。その時男の決心がついた。彼女がそれを思い出している時小さいみか子が金魚にたべさせようとしてさくらんぼうを玻璃鉢のなかへ一粒いれてやった。金魚はそれを口で突つくが喰べられない。みか子はもどかしがり鉢の側で「ああん、とお口を開いて開いて」と教えている。彼女はそれを見ていて何故か涙ぐんだ。

三味線の稽古の師匠をしている彼女のおふくろはさくらんぼうの籠を膝の上に抱えた。

「他所さまへあげるのにはちっと整理をしなくては」

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