山本 周五郎
蒲生鶴千代
一
美濃の国岐阜の城下に瑞龍寺という寺がある。永禄、天正のころに南化和尚という偉い僧がいて、戦国の世にもかかわらず、常に諸国から文人や画家の集まって来るものが絶えなかった。……殊に織田信長が岐阜城を築いてからは、旗下諸将の信仰も篤く、その方丈は毎日和尚の徳を慕って来るこれらの人たちで賑わっていた。
永禄十一年の秋のことであった。
数日前から滞在している里村紹巴という有名な連歌師を中心に、瑞龍寺で志ある人々が集まって歌の会を催していると、一人の見馴れぬ武士が和尚を訪ねて来てその席に加わった。