横光 利一

蛾はどこにでもゐる

一

たうとう彼の妻は死んだ。彼は全くぼんやりとして、妻の顏にかかつてゐる白い布を眺めてゐた。昨夜妻の血を吸つた蚊がまだ生きて壁にとまつてゐた。

彼は部屋に鍵をかけたまま長らくそこから出なかつた。彼は蚊が腹に妻の血を蓄へて飛んでゐるのを見ると、妻の死骸よりも、蚊の腹の中で、まだ生きてゐる妻の血に胸がときめくのを感じた。

二

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