海野 十三

探偵小説と犯罪事件

探偵小説と犯罪事件との関連性についてはいつの世にも論じられるものであるが、最近の世相はまた事新しくこのトピックを取上げる機会を孕んでいるようだ。そこで稍先廻りをしてここに簡単なメモを書きつけておきたいと思う。

具体的な例話から入って行くのが便宜であると思う。この夏、東京の芝公園内で若い婦人の裸死体が発見され、それが絞殺によって落命したものであり、暴行を受けていることも確認された。なおそこからさほど遠からぬところにもう一つの白骨化した絞殺婦人死体があることも序に発見された。これは裸体ではなく着衣のものだった。

この事件は、読者も既に知って居られるとおり、数日後その犯人小平某なる者が検挙されて解決した。

その犯人就縛前、東京ではこの残虐事件について大反響を惹起し、都民の不安は大きくなったのであるが、そのとき都下の新聞は事件現場附近の地理や拾得せる遺棄物件について詳細に報道した。こういう詳しい報道は、かのおさだ事件以後には見られなかったものである。この報道は、都民たちに犯人推定を流行らせた。

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