前田 夕暮

風波の日

今朝、伊東特有の西風が天城から激しく吹き颪して、海には風波が一面に立つてゐる。その風波の海を隔てた遥か東北の方向に、大山丹沢の連山がほの赤く日に温められて、煙波の間に縹渺としてゐる。

浜に出してみると、風が蓬々として海の方へ吹いてゐる。帽子も何も吹きとばされさうだ。寒さは身内に浸透する。海は日蔭つて暗くなる。

私の子供は二人とも元気で渚をぴちぴちとんで歩いた。私は浜に引きあげてある船の蔭に蹲つて海を見てゐた。

子供は靴をびしょびしょに[#「びしょびしょに」はママ]波に濡して、黒い砂の渚を一生懸命に両手で掘り下げてゐる。一二尺も掘り下げると底から潮が湧いてくる。これが彼等には不思議な喜びであつた。

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