甲賀 三郎

五階の窓

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西村電機商会主西村陽吉が変死を遂げてから二日目の朝、暁方からどんよりと曇っていた空は十時ごろになると粉雪をちらちら降らしはじめた。

朝の跡片づけの手伝いをすませた瀬川艶子は、自分の部屋に定められた玄関脇の三畳に引っ込むと、机の前に崩れ坐った。彼女の涼しい目は眠られないふた晩に醜く脹れ上がり、かわいい靨の宿った豊頬はげっそりと痩せて、耳の上から崩れ落ちたひと握りの縺毛が、その尖り出た頬骨にはらりとかかっていた。

彼女はいまその容貌の変化が示すように、絶望の深淵にもがいているのだった。彼女の心の中はノスタルジー、たとえば故国を隔てて数百里、異邦の渺茫たる高原の一つ家で、空高い皎々たる秋の月を眺めた者のみの知る、あのたえ難い掻き乱すような胸の疼痛、死の苦痛にも勝るあの恐ろしい郷愁にも似た苦悩に充満するのだった。それは絶望した人生への限りない郷愁だったのである。

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