柳田 国男
幽霊思想の変遷
一 土俗の荒廢と葬儀
今年などは、自分の此官舍の前の大通りを、所謂赤毛布式の東京見物が少くとも二萬人は通つて居る。今日のやうに地方人の旅行が、殊に大都會との交通が盛んになつては、數百年間何の變化なしに保存せられて居た土俗の消えるのは、瞬くの間であらうと思はれる。
實際又近年になつて、古い習慣の無くなつた實例は、無數にあるのである。中にも暦の改正に伴ふ正月の儀式、若連中が青年會となつた結果としての戀愛方法の變化などは著しいものであらうと思ふ。唯その中で變り方の少からうと思はれるものは一つある。それは葬式の前後に於ける各種の行事である。
此理由は恐らくは、心理學者のたやすく説明し得るところであらうと思ふ。多くの場合の葬式には、事前の計畫と云ふものはない。死亡と云ふ大事件に伴ふ個人竝に一般の不安がある。それから死ぬ者は多數が老人で、暗々裡に舊物、舊制度に對する尊重を要求して居る。