佐藤 春夫
芥川賞の人々
僕は第一回以来の芥川賞詮考委員である。あれはいつからであつたらうか。何しろ二十年もむかしの話で、おほかたは忘れてしまつてゐる。
さすがに第一回だけに、石川達三の当選の時のことだけは、おぼろげながらにも記憶にある。
会場は両国へんのどこかに、大川を見ながら詮考が進められたのは初夏か晩夏であつたのであらう。菊池と久米とが積極的に意見を交換してゐるほかは、誰もあまり活※[#「發+りっとう」、U+3507、288-下-1]な発言はなかつたやうに思ふ。だから第一回の決定は菊池と久米とでしたやうなものであつた。特に菊池は石川の作品に対してだいぶん乗気であつたのを忘れない。僕は候補作品も全部は目をとほしてゐない不熱心であつたかも知れない。
正直なところ、僕ははじめ文芸春秋を文学的な結社といふよりも党を結んで文壇的ヘゲモニーを把握しようための文壇政治的団結のやうに思へて反感を持つてゐたのが、先方にも反映して互に相容れないものがあつて芥川賞の設定にも素直にばかりは考へてゐなかつた。