佐藤 春夫

針金細工の詩

「針金細工で詩をつくれ」

――といふのは、わが畏友堀口大学の一般詩人に対する忠告であつて、亦、実に彼が近代詩の創作に赴かんとするに当つての宣言であつたやうに思はれる。いはゆるウヱットな詩情を放れて、ドライなところに詩を求めようとしたのでもあらうかと思ふ。かくて彼は感傷の野に詩の花を摘まず、知性の山に詩の石を求めた。

彼のゆゆしい志は、不敏なわたくしにもわからないではない。詩を新しくするにはこれに知性を導入するに限るとは思ふ。

ところがである。困つたことに、我々が我々の詩の素材として使ふ日本語なるものは針金ではなくて絹糸である一事である。日本語はまことに光沢ゆたかに柔軟性に富んで一語一語優にやさしい心情の籠つた感情のこまやかな言葉である。といふのは、尤も針金性に乏しい言葉なのではあるまいか。堀口君が我々にあのよい忠告をしてくれた時、彼は外国生活をしてこの日本語の宿命を忘れてゐたのではないかといふ気がする。いや外国語に通じた彼は祖国語を思ひ出して、そのあまりに柔軟性に富むことに腹を立てて、こいつを針金にしてやらうと呪つたのかも知れない。さうしてこの困難なところに挺身したのが、忘るべからざる彼の詩の業績である。

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